
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の患者様は新型コロナウイルスワクチン接種を受けるべきでしょうか?
このような悩みがある方がいらっしゃる方がいるかと思います。これを考える前にまずは新型コロナウイルスワクチンについて簡単にお話したいと思います。現在日本政府はファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社とワクチン供給を受けることで同意し、ファイザー社の医療従事者へのワクチン接種が令和3年2月より始まりました。
各社のワクチン有効率はファイザー社で約95%、モデルナ社で約94%、アストラゼネカ社で約70%と報告されています。ワクチン有効率90%というのは、「90%の人にはワクチンが有効で、10%の人には効果がない」であるとか、「90%の人は新型コロナウイルス感染症にかからないが、10%の人はかかる」といったことではありません。「ワクチンを接種しなかった人たちよりも、ワクチンを接種した人たちの発症率の方か90%少なかった」という意味で、発症リスクが10分の1になるとも言えます。
ここでファイザー社やモデルナ社とアストラゼネカ社との有効性の差についてですが、ファイザー社やモデルナ社はmNRAワクチン、アストラゼネカ社はウイルスベクターワクチンであることに起因し、その特性によるものと思われます。インフルエンザワクチンの有効性が例年50%未満であることを考えると、驚異的な数字であると言えます。
またワクチン接種に伴う副作用は、接種部位の痛みが約70%の人に、倦怠感、頭痛が約50%の人にみられます。重大な副作用として知られているアナフィラキシーショックは、ファイザー社のワクチン接種の市販後調査で100万接種中11.1例、モデルナ社で100万接種中2.5例が報告されていますが、死亡例の報告はなく、安全性は比較的高いものと思われます。
このような高い有効率や重篤な副作用の少なさ、厚生労働省がステロイドなど免疫機能を低下させる治療を行っている基礎疾患のある方の接種を推奨していることを考えても、ワクチン接種のメリットは高いと思われます。また「炎症性腸疾患の患者は可及的速やかに新型コロナウイルスワクチンを接種すべきである」という提言が海外の論文や学会から報告されています。
一方で、これらは一般論であり、免疫を抑制する薬を投与されている患者様のワクチンの安全性・有効性に関するデータがないことも確かです。また現時点でワクチン接種することで炎症性腸疾患が悪化するかどうかは分かっていません。これらをふまえて、それぞれの患者様においては主治医とよく相談して、ワクチン接種を受けるか決めていただければと思います。
今後日本の学会などからあらたな声明がでると思いますので、その際は追って報告していきたいと思います。