薬剤が原因の消化管障害について3回目になります。今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症に関することで、抗生剤が誘因となった腸炎について広くお話したいと思います。
クロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)を聞いたことがある方は少ないと思われますが、ヒト・動物の腸内などに生息する菌のことで、高熱や酸、乾燥環境下でも長期間生存可能で、アルコールなどの消毒薬にも強い抵抗性を示します。健康な成人の一部や1歳以下の乳児の腸管内に少なからず存在し、抗菌薬を投与することで善玉の腸内細菌叢が減り、菌交代現象が起こります。そのためクロストリジウム・ディフィシルが異常増殖し、毒素を産生することで腸炎を起こしてしまいます。抗菌薬については様々な抗菌薬が原因となりますが、胃切除後やPPIなどの制酸薬投与、免疫力の低下などが誘因となると言われています。
クロストリジウム・ディフィシル感染症では無症状(保菌者)から重症例まで様々な臨床像を呈します。無症候性保菌者では症状もなく、内視鏡上も正常ですが、下痢や発熱などの症状が出現し、血液検査で炎症反応上昇があると、大腸内視鏡検査でびらんや浮腫などがみられるようになります。通常は抗菌薬中止だけで症状は改善しますが、なかには偽膜性腸炎に移行するものもみられます。クロストリジウム・ディフィシル感染症に特徴とされる偽膜性腸炎は約10%程度に出現し、直腸からS状結腸に白色調の偽膜を形成します。偽膜性腸炎が疑われる際には、便検査で毒素の存在が証明する必要があります(トキシン検査)。トキシン陽性の際には偽膜性腸炎と診断できますが、トキシン陰性の場合でも大腸内視鏡検査で偽膜が確認されれば、クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療を行います。一方でトキシン陰性で内視鏡上も偽膜が確認できず、びらんなどの軽度の炎症のみがみられる場合は、抗生物質起因性腸炎として治療していくこととなります。
治療は原因抗菌薬の中止と重症度に応じてメトロニダゾールやバンコマイシン内服による治療を行います。クロストリジウム・ディフィシル感染症は4人に1人は再発すると言われており、近年ではヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)除菌後に起こる腸炎として問題になっています。抗菌薬使用は必要な時に適切な期間行うことを心がけ、むやみな乱用は控えることも重要と思われます。