炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎やクローン病に分類され、いずれも20~30歳代に好発し、小児の発症もめずらしくはありません。炎症性腸疾患の患者さんはステロイドや免疫調整薬であるアザチオプリン、抗TNFα抗体製剤などの生物学的製剤など免疫を抑制する薬(免疫抑制療法)を使用していることも多く、ワクチン接種を行うべきかどうか、接種するのであればいつがいいのかなど悩まれている方もいらっしゃるかと思います。また薬物治療中の患者さんが妊娠・出産した場合、新生児のワクチン接種はどうしたらいいのかということも考えなければなりません。以前炎症性腸疾患の患者さんに対しての新型コロナウイルスワクチンについてお話しましたが、今後はそれ以外のワクチン接種について説明してまいりたいと思います。
一般にワクチンは麻疹や風疹、水痘、ムンプスなどの生ワクチンとそれ以外の不活化ワクチンに分類されます。生ワクチンは病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱めた病原性を低下させたものを原材料として作られたワクチンであり、不活化ワクチンは病原体を分離・精製して、様々な処理を行い不活化し、感染性や病原性を消失させたワクチンのことをいいます。
炎症性腸疾患の患者さんは、上述の免疫抑制療法を行うことも多く、麻疹や風疹、水痘、ムンプスなどの疾患に感染し、重症化するリスクがあります。可能であれは免疫抑制療法開始前にワクチン接種を検討するのが望ましく、診断時にワクチン接種歴を確認する必要があります。特に水痘にかかったことがあるかないかは、帯状疱疹や重症水痘発症のリスクを判断する上で非常に重要です。またB型肝炎に関しては、免疫抑制状態での再活性化は有名な合併症であり、診断時や治療前に感染状態のスクリーニングを行う必要があります。
免疫抑制状態での生ワクチン接種は、ワクチン株により致死的なウイルス感染症を発症する可能性があるため、原則として推奨されていません。国内のガイドラインでは免疫抑制療法を中止した後で生ワクチンを接種する場合、中止後3ヶ月を目安に接種が可能となります。一方で生ワクチン接種後、免疫抑制療法開始までは3週間以上あけなければなりません。
一方で免疫抑制療法中でも不活化ワクチン接種は、感染症などの重篤な合併症もなく、安全に接種することが可能です。しかし免疫抑制療法治療中は抗体獲得率が低下する可能性があることには注意しておきましょう。
少し話が長くなったため、今回はこれまでとします。次回は妊娠・出産、授乳とワクチン接種についてお話したいと思います。